外壁塗装の塗料は大きく分けてアクリル、ウレタン、シリコン、フッ素の4種類です。

そして塗料には、断熱塗料や光触媒塗料、無機塗料といった様々な特徴を持つ機能性塗料が数多く存在しますが、中にはゴムのような性質で外壁のひび割れや漏水を防ぐ機能を持つもあります。

このようなゴムのような性質を持つ塗料のことを「弾性塗料」と呼びます。

 

この記事では、一般住宅の外壁塗装にも使われる弾性塗料の種類やメリット、使用上の注意点などについて解説します。

■弾性塗料とは?

弾性とは画像のように力が加わると伸び縮みする性質のことです。

詳しく説明すると、「なんらかの力を加えられて変形した物体が元の力に戻ろうとする力」という意味になります。

 

外壁塗装においても弾性の力が利用されており、弾性を持つ特殊塗料は「弾性塗料」と呼ばれています。

1.ゴムのような伸縮性

弾性塗料の特徴といえば、なんといってもそのゴムのような伸縮性です。

塗料は外壁に塗装して固まる前は液状ですが、一般の塗料はサラサラで粘度の低い液体で、塗装後に乾くとパリっとした硬い膜のようになります。

それに対し弾性塗料の液はドロドロしており、塗装後に乾くとゴムのように伸び縮みすることができます。

 

塗膜の厚さに関しても弾性塗料は一般の塗料とやや異なります。

弾性を持たない塗料は、乾燥後の塗膜が0.1mm~0.3mmの厚さになるものが多いです。

弾性塗料はその約10倍の1.5mm~3mmの厚さになります。

 

弾性塗料はこの伸び縮みする伸縮性と厚みによって、外壁の下地や塗膜表面にクラック(ひび割れ)が入りそうになっても塗料自体が割れを防ごうとし、万が一割れてしまっても塗膜が伸びて割れ目をカバーすることができます。

外壁塗装で弾性塗料を選ぶ目的は、外壁のクラックを防止するために他なりません。

2.弾性塗料の規格

日本工業規格(JIS)で定められた弾性塗料の基準は、「気温20度で伸び率120%以上」です。

弾性がない塗料はこのように伸びることはできませんので、弾性を持たない塗料は「硬質塗料」と呼ばれることがあります。

 

なお、規格では伸び率は120%以上とされていますが、昨今は塗料メーカーからどんどん質の良い弾性塗料が開発されるようになりました。

近年は伸び率200~400%という非常に弾力性の強い塗料なども登場しています。

例えばアステックペイントから出ている防水塗料『EC-5000PCM』は、なんと600%の伸縮率を持っています。

■弾性塗料の特徴と効果

弾性塗料はゴムのような弾性によって、以下のような効果をもたらします。

1.モルタル壁のひび割れ防止

画像引用:アステックペイントジャパン ホームページより

モルタル壁は乾燥によって収縮するためクラックが発生しやすいため、弾性塗料の性質と非常に相性が良い外壁です。

 

モルタル壁とはセメントと砂、水を混ぜて作ったモルタルをコテなどで壁状に仕上げて作る壁です。

近年の新築住宅に使われるケースは少なくなりましたが、1990年代以前に建てられた家はモルタル壁が多いです。

 

モルタル壁はサイディングボードに比べてひび割れが頻発しやすく、割れるたびに何度も手直ししていてはメンテナンス費用がかかってしまいます。

そこで、伸縮してひび割れを防ぐ弾性塗料で塗装しておくと、外壁の塗り替えとひび割れ対策を1度で済ませることができるのです。

2.高い防水性

戸建て住宅のリフォームで最も多い相談内容が「ひび割れ・雨漏り」です。

水が家の内部に侵入してしまうと、塗装が剥がれてしまうだけでなく、水が外壁内部に入り込んで鉄骨や木材などの骨組み部分が腐食するケースもあり、そのような状態になると建物の耐久性が非常に低下し危険です。

 

弾性塗料は防水性が高い塗料ですので、ひび割れ対策以外にも防水塗料として使うこともできます。

台所で使うゴム手袋を想像していただくと分かりやすいと思いますが、ゴムはよく水をはじく素材です。

また、弾性塗料は塗膜、つまり防水層が厚いため、単純に水が浸入しづらい外壁を作ることができます。

3.外壁塗装ではゴムの性質が活躍している

弾性塗料はゴムのように伸縮する弾性機能を活かしてひび割れや漏水を防ぐ塗料です。

そして外壁塗装ではこのようなゴムの特性があちこちに利用されています。

 

以下に挙げるものは弾性塗料ではありませんが、建物の防水性を司る部材ですので、弾性塗料とセットで覚えておくとよいでしょう。

●コーキング(シーリング)

サイディングの目地材や窓サッシの周りなどに充填されているゴムのような部材は、コーキング材、またはシーリング材と呼ばれます。

コーキングも弾性塗料のようにゴムと似た性質を持っていますので、防水性や密着性に優れています。

 

サイディング外壁は沢山のパネル材を壁に張り合わせて作りますので、どうしてもボード同士に隙間が生じます。

この隙間に充填するのがコーキング材です。

ボード同士の目地を放置してしまうと、汚れや害虫、雨水などが浸入してしまいますので、コーキングの充填はサイディング壁では欠かせない工程です。

また、サイディングボードは気温差によって本体が収縮したり、建物が揺れた衝撃で動いたりするため、コーキングはその動きを吸収するためにも充填されています。

 

コーキングもゴムと同じく紫外線や雨水で経年劣化しますので、約10年で補修が必要です。

少しの劣化であれば、新しくコーキングを追加する「増し打ち」で充分な場合もあります。

しかし、コーキング本体にヒビ割れが起きていたりゴムが縮んで痩せたりしている場合は、劣化したコーキングを一度すべて取り除き、新しくコーキングを打ち直す「打ち替え」を行った方が良いでしょう。

●ゴムシート防水

ゴムシート防水は鉄骨ALCの屋根によく仕様される防水工法です。

防水性の高いゴム製の防水シートを屋根に貼り付ける事によって、雨がたまったり雪が積もったりしてダメージが蓄積されていく屋根を、外壁よりも強力に防水できるようになります。

●屋根の瓦止め

屋根瓦を固定するときにもゴム質のコーキングが使われます。

 

瓦屋根が劣化すると割れ目や浮いた箇所から雨が浸水して、屋根下地を腐食させ雨漏りの原因を作ってしまいます。

また、地震や台風などの自然災害で崩れ落ちて階下に落下する危険性もあるため、屋根にしっかり固定しておかなければなりません。

 

ゴム状のコーキングは隙間を埋めて雨漏りを防止するだけでなく、瓦を一枚ずつくっつけることができるため、屋根瓦全体が一つにまとまって瓦が落下する危険性をグンと下げます。

■弾性塗料の種類

弾性塗料には複層弾性塗料、単層弾性塗料、そして微弾性塗料の3種類があり、それぞれ使用方法も異なります。

1.複層弾性塗料

複層弾性塗料は、

  • 下塗り×1
  • 中塗り…弾性塗料×2
  • 上塗り×2

という、合計5工程の「複層弾性工法」で仕上げます。

下塗り塗料はシーラーが使われることが多く、上塗り塗料ではアクリル系からフッ素系までどの塗料を使用しても問題ありません。

 

後述しますが、他の弾性塗料は3工程です。

つまり複層弾性塗料を使った塗装は時間も人件費もかかるため、費用も高くなります。

ただしコストがかかる分非常に弾力性がありますので、クラックの予防や防水効果も高くなります。

2.単層弾性塗料

単層弾性塗料は、

  • 下塗り×1
  • 中塗り…弾性塗料×1
  • 上塗り…弾性塗料×1

という合計3行程で完了します。

 

上塗り塗料を重ね塗りすることにより、塗膜に厚みを持たせて弾力性を高めることができますが、やはり5行程の複層弾性塗料に比べると弾力性も防水性も劣ってしまいます。

ただし工程数が少ない分、複層弾性塗料に比べて費用が安いというメリットがあります。

3.微弾性塗料

微弾性塗料、または「微弾性フィラー」は、下塗りに使います。

他の工法では下塗りに「シーラー」という下地材を使用していますが、微弾性塗料はシーラーよりもドロドロして厚みがあります。

 

下塗りに使う微弾性フィラー自体が弾性を持っていますので、仕上げに弾性塗料を使用する必要はありません。

つまり微弾性塗料で下塗りを済ませたあとは、シリコン系塗料やフッ素系塗料など耐用年数が高い塗料を上塗り材に選ぶことができます。

■人気の弾性塗料

弾性塗料は色々な塗料メーカーから種類が出ていますので、価格や塗装できる素材などを比較して選ぶことができます。

 

外壁塗装でよく使われる弾性塗料

  • SK水性ELコート(エスケー化研)
  • アレスアクアビルド(関西ペイント)
  • DANシリーズ(日本ペイント)
  • 弾ビニシリーズ(ロックペイント)
  • ダンディシリーズ(大日本塗料)
  • セラビューレ(スズカファイン)
  • ハイプルーフ(日本特殊塗料)
  • デカデックス(LPL社)

など

 

もちろん上記以外にも弾性塗料はたくさん存在していますが、塗装業者が提案するオリジナル塗料には注意しなければなりません。

弾性塗料は価格が高いため、悪質な塗装業者はオリジナルの品質の低い弾性塗料(弾力性がなくクラックを防げない)を使用し、高い工事費用を請求することがあります。

 

塗装業者やハウスメーカーから外壁塗装工事の見積もり書をもらったら、塗料の名前でインターネット検索して価格や評判を調べてみるのをおすすめします。

■弾性塗料の注意点

これまで弾性塗料のメリット面をご紹介してきましたが、弾性塗料を選ぶ際は以下の注意点も覚えておかなければなりません。

1.弾性塗料はサイディングには塗装できない

他の塗料にはない画期的な特徴を持つ弾性塗料ですが、多くの戸建て住宅で使われているサイディングボードには塗装できません

 

サイディングボードはモルタル壁に比べて劣化しにくい優れた外壁材ですが、劣化すると表面の塗装が剥がれたり収縮でヒビが入ったりするためメンテナンスは必要です。

 

サイディングボードも、ひび割れ効果のある弾性塗料で塗装したいと考えてしまいますが、サイディングボードは弾性塗料で塗装することができません。

サイディングボードの内側には断熱材が入っており、屋外の熱を家の内部に届けまいとしてボード自体が熱を貯め込もうとします。

このように蓄熱するサイディングボードの上に弾性塗料を塗装してしまうと、弾性塗膜が熱で激しい伸縮を繰り返し、ボードと塗膜の間に空気が入り込んでしまいます。

するとその空気が塗膜表面に膨れとなって現れて、気泡だらけの耐久性の低い塗膜になってしまいます。

 

サイディングも弾性塗料も優れた機能を持っているため是非とも組み合わせて使いたいと考えてしまいますが、残念ながら相性が良くないため一緒に使用することはできません。

2.悪質な塗装業者に弾性塗料を勧められたら注意

これはどの塗料でも言えることですが、悪質な塗装業者には注意しなければなりません。

 

弾性塗料は他の塗料に比べるとドロドロしているということは前述した通りですが、これは塗装するとき伸びが悪く、塗りにくいということを意味します。

そのためさっさと作業を済ませてしまいたい手抜き工事業者は、規定以上に塗料を薄めてサラサラの状態で使おうとします。

もちろんこのような誤った使い方をすれば、弾性塗料本来の効果も発揮できず、塗膜の寿命も縮まってしまうでしょう。

 

また、この手法は塗料代を安く済ませようとする悪徳業者も使います。

原液を薄めれば薄めるほど業者が負担する塗料代は安くなるためです。

さらに、塗料を薄めておきながら工事費用は通常通り請求しようとするため、非常に悪質です。

その他にも「弾性塗料が安く施工できますよ」と言って弾性塗料を勧めてくる格安業者も、塗料を薄める恐れがあるため注意しなければなりません。

 

このような悪徳業者の被害に遭わないためには、業者と契約してしまう前に、使用する塗料の名前とメーカーを確認しておきましょう。

ほとんどのメーカーは「何平米に対して塗料缶がいくら必要」という情報をホームページに掲載しています。

この基準に対しあまりにも塗料缶の使用数が少なく見積もられているときや、そもそも塗装面積の計算根拠が不明な見積もりを作られているときは悪徳業者の危険性が高いと考えられます。

優良業者は明瞭な見積もりを作ってくれるだけでなく、実際に使用した塗料の空き缶を施主に報告してくれます。

3.2液タイプの弾性塗料は手間と時間がかかる

弾性塗料のほとんどは「2液タイプ」です。

 

2液タイプの塗料とは、現場で「主材」に「硬化剤」を加えて使用する塗料のことです。

一方、一種類の缶のみで使えるタイプの塗料は「1液タイプ」と呼ばれます。

 

2液タイプの塗料は耐久性、密着性ともに1液タイプよりも優れています。

しかし、配合量を見ながら慎重に混ぜる必要があるため、作業に手間も時間もかかります。

また、1液タイプの塗料は余ったときはフタをして残りを再利用できることがありますが、2液タイプの塗料は一度混ぜ合わせると約半日で使い切らなければならず、保存ができません。

 

このように手間も時間もかかる2液タイプの弾性塗料は、1液タイプの塗料に比べて値段も高くなってしまいます。

しかし、多少値段が張ってでも耐久性を優先したいと考えて2液タイプを選ぶ方も少なくはありません。

■おわりに

ひび割れが頻発するモルタル壁にお悩みであれば、弾性塗料を使った塗替えがおすすめです。

ただし、弾性塗料サイディングの壁には重ね塗りできないので、もしご自宅がサイディング壁の場合は選択肢から外さなければなりません。

そのほか、塗装業者がオリジナルの弾性塗料を勧めてくるケースもありますので、業者の過去の施工事例や塗料名などを詳しく調べて信頼できる塗料かよく確認することが大切です。

 

弾性塗料には複層弾性塗料・弾性塗料・微弾性塗料の3種類がありますので、予算やひび割れの程度に合わせて、塗装業者と塗料選びについてよく打ち合わせを行いましょう。