外壁の塗装は、建物を長持ちさせたり屋内への雨漏りを防いだりするなどの重要な役割を担っています。
しかし外壁は一度塗装すれば機能が永久に維持されるものではなく、雨風にさらされるうちに劣化してしまうので10~15年に1度は塗り替えなければなりません。
戸建て住宅の外壁の塗り替えではコストパフォーマンスに優れたウレタン塗料やシリコン塗料がよく使われますが、両者の違いをしっかり認識して発注される方は少ないのではないでしょうか。
そこでこの記事では、外壁塗装を発注する際に迷いやすい、ウレタン塗料とシリコン塗料の特徴について、それぞれの違いを比較しながら詳しくご紹介します。
このページの目次
■ウレタン塗料とシリコン塗料は比較されやすい
ウレタン塗料とシリコン塗料はよく比較されやすい塗料です。
その理由は、両者の性能や費用が近いことが挙げられます。
塗料メーカーのパンフレットを見ても「優れた耐久性」などといった抽象的な表現が使われていて、どちらが優れているのか非常にわかりにくくなっていますので、グレードや耐用年数、施工価格の違いについて把握しておきましょう。
1.グレードが近い塗料
塗料のグレードは、
アクリル塗料<ウレタン塗料<シリコン塗料<ラジカル塗料<フッ素塗料
の順に耐久性や価格が高くなります。
シリコン塗料はウレタン塗料に比べてグレードが高いですが、どちらも塗料全体で見るとちょうど真ん中に位置する点で近似しています。
2.施工価格と耐用年数が近い
最もグレードが低いアクリル塗料は約1000円/㎡と非常に安価ですが、耐用年数は5~8年と非常に短いです。
一方、最もグレードが高いフッ素塗料は約15~20年という非常に長い耐用年数を誇りますが、施工価格は約4000円/㎡と非常に高価です。
この2つの塗料に比べると、ウレタン塗料やシリコン塗料は耐用年数が10年程度で近く、施工価格も㎡あたり約2,000~3,000円と近く、シリコン塗料がやや高い程度です。
ひと昔前まで、外壁塗装では安くて扱いやすいウレタン塗料が主流でした。
しかし、最近は耐久性が高いシリコン塗料の金額が安くなってきており、ウレタン塗料よりも少し高い程度の価格帯で安定しています。
多くの方は外壁塗装の塗料を選ぶときに、耐用年数が短いアクリル系塗料や金額の高いフッ素系塗料を選択枝から除外したあと、施工価格と耐用年数が近くバランスも良いウレタン塗料とシリコン塗料のどちらにするかで悩むことになります。
■ウレタン塗料とシリコン塗料の違い
ウレタン塗料とシリコン塗料の違いはグレードが異なるだけではありません。
詳しく見ると、両者にはグレードが違うはっきりとした理由があります。
以下から、どちらにするか非常に悩ましいウレタン塗料とシリコン塗料について、耐久性、施工価格、作業性の3つの項目それぞれで比較します。
1.耐久性の違い
まずは屋外の外壁塗装に使用する塗料として不可欠な、「耐久性」について比較してみましょう。
●ウレタン塗料の耐久性
ウレタン塗料の期待耐用年数は約8~10年です。
また、ウレタン塗料には「弾性」があり、ひび割れしにくい塗膜を作ることがこの塗料最大の特徴になります。
弾性とは圧力が加わった時に元の形に戻る力のことで、ゴムやスポンジなどを想像するとイメージしやすいかと思います。
弾性が強い塗料は、地震で建物が揺れても塗装にひびが入り辛くなります。
外気が高温になったり低温になったりして外壁が膨張収縮しても、弾性の塗料で塗装しておくとひび割れが起きそうになっても塗料が伸縮するため、塗膜が破れずに建物を守ることができるのです。
また、ウレタン塗料は密着性にも優れており、木材などの塗装が剥がれやすい素材に塗装してもある程度耐えることができます。
ただしウレタン塗料はシリコン塗料に比べると紫外線に弱い塗料です。
年月が経過すると少し黄色くなるため、白色で塗装した場合は数年するとクリーム色に変化する可能性があるので注意が必要です。
最近はポリオール樹脂をベースにしたウレタン塗料が開発され、黄変しない種類も増えてきました。
白色で塗装する場合は、使用する塗料の性能をしっかり確認しておきましょう。
また、ウレタン塗料はシリコン塗料と比べて8割程度の光沢保持率しかないとされています。
光沢保持率が低いと、経年劣化とともに光沢が失われる速度が速くなります。
ですが、ウレタン塗料はもともと光沢が強い傾向があるので、光沢保持率が低くても十分に光沢があると感じる方もいらっしゃいます。
ウレタン塗料のもうひとつのデメリットは、防汚性に欠けているので汚れを付着させてしまいやすい点が上げられます。
ただしこの点についても、近年は防汚性を向上させた塗料が開発されているのでウレタン塗料を塗ったからといって外壁がすぐに汚れてしまうわけではありません。
●シリコン塗料の耐久性
シリコン塗料の耐用年数は約10~15年です。
シリコン塗料は、熱に非常に強くて汚れにくく、光沢も長持ちする高耐久性の塗料です。
シリコン塗料は250度から600度の高熱にも耐えることができ、暑い地域でも問題なく使用することができます。
また、耐候性が高いため雨や紫外線にも強く汚れにくいので、長期間に渡って綺麗な塗膜を保つことが出来ます。
光沢保持率も高く、ウレタン塗料に比べてツヤが長持ちするため、長期間美しい外壁面を維持することができます。
2.施工価格の違い
次に、ウレタン塗料とシリコン塗料の施工価格の違いを比較してみましょう。
- ウレタン塗料:約1,800~2,000円/㎡(100㎡で約18~20万円)
- シリコン塗料:約2,200~3,000円/㎡(100㎡で約22~30万円)
両者の塗材価格を比較すると、平米あたりで1,000円近くの差があります。
塗料の費用は平米あたりの単価に対し、外壁面積を乗じて計算することができます。
そのため建物の坪数が違えば施工費用も変わります。
例えばウレタン塗料とシリコン塗料を100㎡の外壁に塗装した場合は、ウレタン塗料が18~20万円、シリコン塗料が約22~30万円となります。
塗装代だけでも両者には10万円程度の費用差が生じます。
ウレタン塗料とシリコン塗料の耐用年数や性能の差を考慮したあとは、この約10万円という金額が大きいのか小さいのかについて考えなければなりません。
ちなみに、外壁塗装では塗料代だけでなく足場設置などの付帯工事や人件費、諸経費なども発生するので上記の金額だけでは施工できません。
約30~40坪の家を外壁塗装工事すると、60~90万程度の費用がかかってきますので参考にしてください。
3.作業性の違い
ここではウレタン塗料とシリコン塗料について、施工者側の観点で「作業性」を比較してみましょう。
「作業性」とは、外壁に塗料が塗りやすいかどうかを表す言葉です。
作業性が高いほど塗りやすい塗料ということになります。
そして塗りやすいということは施工ミスが起きにくいということでもあります。
●ウレタン塗料の作業性
ウレタン塗料は弾性があり伸びもよく、密着性が高いので様々な素材に塗装できる塗材です。
乾燥や湿気で常に変形する木材のような素材でも塗装できると考えれば、非常に作業性が高い塗料と言えるでしょう。
デメリットとしては水分との相性が悪く、湿度が高い時に塗布すると塗膜性能が落ちてしまうので梅雨の時期は使用を控えた方がいいでしょう。
●シリコン塗料の作業性
シリコン塗料は液の粘度が低く粘り気が強い塗料ですので、顔料が沈殿しやすく頻繁に撹拌して使用しないといけません。
手間がかかるため素人には扱いにくく、DIYなどには不向きなタイプの塗料です。
また、付着性が悪く撥水性が高いため、重ね塗りをした時に塗装が剥がれやすい点にも注意しなければなりません。
施工時は事前に外壁の下地処理をしっかり行い、相性の良い下塗り塗料を塗布しておく必要があります。
よって、シリコン塗料を使用する時は、信用のおける技術力の高い業者に依頼することが必須となります。
付着性が悪いため木部への塗装は避けた方が良いシリコン塗料ですが、サイディングボードとの相性は良い塗料です。
サイディング壁の塗装においてはほぼシリコン塗料の独壇場になっています。
■どちらが良いかは場面次第
ここまで、ウレタン塗料とシリコン塗料ついて、耐久性、施工価格、作業性の3つの観点から比較してきました。
絶対的にどちらかが優れているということはなく、両方にメリットやデメリットが存在します。
また、シリコン塗料は素人には扱いが難しく、プロの業者でも信用のおける会社に頼むべきということをお伝えしましたが、これはどのような塗料を選ぶ場合でも一緒です。
外壁塗装においては、適切な施工監理のもと正しく塗料を使用してくれる優良業者を選ぶことが大切です。
そのため、どちらの塗料を使用するかは、塗装する箇所の素材や、塗料の耐用年数や予算などを考慮して選ぶべきと言えるでしょう。
それでは、具体的にウレタン塗料とシリコン塗料の使い分けについて、塗装箇所と耐用年数のそれぞれで見ていきましょう。
1. 塗装する箇所に合わせて使い分ける
まずはウレタン塗料とシリコン塗料それぞれの、適している塗装箇所をご紹介します。
●ウレタン塗料の塗装箇所
ウレタン塗料は密着性が高いので、木製や塩ビ製素材、鉄部などの塗装に適しています。
木材や鉄部が多い雨樋や雨戸、破風板といった付帯部塗装におすすめの塗料です。
また、ヒビ割れしやすいセメントモルタル壁の塗装にもウレタン塗料は適しています。
下塗り材を変えることによって、木部、鉄部、外壁など様々な箇所にも採用することができます。
●シリコン塗料の塗装箇所
シリコン塗料はウレタン塗料よりも耐候性が強く耐久年数も長いため、外壁や屋根、特にサイディング外壁への使用がおすすめです。
外壁と屋根は建物の広範囲を保護している大切な保護材ですので、ウレタン塗料よりも耐久性が高いシリコン塗料を選んだ方が良いでしょう。
2.次の塗装までの間隔で決める
ウレタン塗料とシリコン塗料の使い分けについて、「外壁塗装を行う間隔」という観点からみていきます。
外壁塗装を行う間隔が長いほど、建物のメンテナンスにかかる費用を減らすことができます。
●シリコン塗料を使って塗装間隔を空ける
外壁塗装をする期間の間隔を長くしたい時は、耐熱性・耐久性に優れて光沢保持率もよく、コストパフォーマンスに優れたシリコン塗料を選ぶべきという考え方があります。
シリコン塗料はウレタン塗料よりも耐用年数が長く、ウレタン塗料との金額の差も小さいので、施工金額を耐用年数で割ると、シリコン塗料の方がウレタン塗料よりもトータルのメンテナンス費用を減らすことができるでしょう。
●外壁と屋根の耐用年数を合わせるためにウレタン塗料を使う
外壁塗装と屋根塗装を同時に行うために、あえて耐用年数が短いウレタン塗装を外壁塗装用の塗料に採用するという考え方もあります。
外壁塗装をする時は、屋根の塗装も外壁と一緒に行うと、足場代などが一回でまとめられ効率よく塗装が行えます。
紫外線や太陽熱、雨水が強く当たる屋根は、塗料の耐用年数が低い場所です。
そのため、屋根に塗装した塗料は外壁よりも早く劣化し、約10年以内に耐用年数を迎えます。
外壁と屋根の耐用年数を合わせるためには、外壁用塗料に耐用年数が10年のウレタン塗料を選び、屋根用塗料に耐久性が高いシリコン塗料を選ぶという考えもあります。
ちなみに外壁にもシリコン塗料を採用したいときは、屋根には外壁よりも耐久性が高いタイプのシリコン塗料を使うか、フッ素塗料などの一段階グレードが高い塗料を採用するという考え方もあります。
先述の「外壁塗装の間隔を空ける」という観点では、外壁にシリコン塗料を使い、屋根にはフッ素塗料を使った方が、建物の耐久性は長くなりメンテナンスコストもかからないでしょう。
なお、いずれの考え方を採用しても、塗料は家の立地や日当たりなどの環境条件で耐用年数が前後します。
そのため必ずしも予想通りの耐用年数になるとは限りません。
目に見える劣化がなくても5~10年に1度のメンテナンスで早期に劣化を発見しておくことが大切です。
■おわりに
ウレタン塗料とシリコン塗料はグレードが近く、どちらにもメリットとデメリットがあります。
ですが全く同じ塗料というわけではありませんので、その違いについては十分理解しておかなければなりません。
塗料の違いを明確に理解し、正しい知識を持ったうえで塗装会社に依頼することで、満足度の高い外壁塗装リフォームを行うことができるでしょう。