外壁塗装をするときは塗料の種類も重要ですが、どうやって塗るかも重要です。
塗装に使う道具は主に「刷毛」「ローラー」「スプレー」などがあり、このうちスプレー塗装は広範囲を一度に塗装できる方法として知られています。
もしご自宅の塗装がスプレー塗装で行われることになった時に備えて、他の塗装方法との違いや、スプレー塗装のメリットやデメリット、注意点などを知っておきましょう。
このページの目次
■塗料を塗る道具は3種類
まずは塗料を塗る3つの道具について、それぞれの特徴をカンタンに把握しておきましょう。
1.ハケ
ハケによる塗装は最も古典的な施工法と言えます。
毛のタイプや使用用途によって以下の種類に分けることができます。
刷毛の種類 | 特徴 |
水性用刷毛 | 刷毛への塗料のしみ込みが早い |
油性用刷毛 | 粘度が高い溶剤系塗料でも使用できる |
万能刷毛 | 水性・油性のどちらにも使える |
目地刷毛 | 目地などの細かい部分を塗装する細いハケ |
山羊毛刷毛 | 毛質が柔らかいため塗った部分に刷毛の跡が残りにくい |
外壁塗装と聞くと、刷毛で塗る姿を想像する方も多いかもしれませんが、刷毛が使われる機会は実は少なくなっています。
その理由として挙げられるのが、取り扱いの難しさです。
刷毛で塗替えをしようとするとどうしても塗膜にムラが残りすく、他の道具と比較しても塗装に時間がかかってしまいます。
しかし、細かい部分や入り組んでいて他の道具では塗りにくい場所の場合、細い刷毛ならば器用に塗装することができます。
2.スプレー
専用のスプレーガンを使って屋根や壁に塗料を吹き付ける施工方法もあります。
これは家の屋根や壁だけでなく、車や工業製品の塗装でも行われています。
また、セメントモルタル壁の吹き付け塗装を行う際は、スプレーガンを使って仕上げ塗装を行います。
●セメントモルタル壁の吹き付け仕上げ
セメントモルタル壁とは、ラス金網とモルタルで下地を作り、その上から樹脂や砂などを混ぜた塗料を吹き付けて仕上げる外壁のことです。
サイディング壁などパネルを張り合わせて作る外壁が「乾式工法」と呼ばれるのに対し、モルタル壁は「湿式工法」と呼ばれます。
モルタル壁は、施工主の希望によってリシン仕上げ、スタッコ仕上げ、吹き付けタイル仕上げ、左官仕上げなど様々な仕上げ方法を選ぶことができます。
※それぞれの特徴については後ほど説明します。
汚れやすいため吹き付ける塗料は汚れに強いシリコン塗料やフッ素塗料が適しています。
3.ローラー
現在の外壁塗装で最も主流の施工方法がローラー仕上げ工法です。
ローラーは刷毛よりもムラなく均一に塗装でき、スプレーよりも塗料に無駄が出ず、市販の家庭用塗料を使ったDIYでも失敗しにくいことから人気を得ています。
ローラーも、ローラー表面の毛足の長さや素材、塗装する外壁のタイプなどによって下記のような様々な種類を使い分けます。
種類 | 特徴 |
万能ローラー | 塗料や部位を選ばず塗れる |
長毛ローラー | 毛の長さが20ミリ以上
作業効率が良い |
羊毛ローラー
(ウールローラー) |
既存の外壁の模様を潰さずに塗れる
膜厚が均一になりやすい |
砂骨ローラー
(多孔質ローラー・スポンジローラー・ パターンローラー・模様ローラー) |
厚塗りや粘度の高い塗料を使うときなどに向いている
塗料を一度にたくさん吸い上げることができる |
ローラースタンプ | スタンプ状になっており模様が簡単に施せる |
用途に適していないローラーを選ぶと仕上がりや作業効率が悪くなってしまいますので、塗料選びとは別にローラー選びも塗装業者の大切な仕事です。
■スプレーで塗装するメリット
スプレーを使った塗装には、刷毛やローラーにはない以下のようなメリットがあります。
1.職人の負担が少ない
刷毛塗りやローラー塗りなどの手塗り作業と比較して、スプレーによる塗装は施工する職人にかかる肉体的負担が少ないというメリットがあります。
刷毛やローラーは手や腕を何往復もさせなければならず、作業員の肉体的負担はかなりのものです。
一方機械を使って一気に塗料を吹き付けるスプレー塗装は、腕を何度も動かすローラーや繊細な作業を伴う刷毛に比べると肉体的負担は非常に少なくなります。
ただし、重い機械を慎重に取り扱わないといけないため決して楽な作業ではありません。
作業員の負担が少ないと、施工ミスのリスクが減り工事期間も延びにくいという意味で施主にもメリットがあります。
2.広範囲を一度に塗装できる
ノズルから霧状に塗料が噴射されるため、一度に広範囲を塗装できる点がスプレー工法最大のメリットといえます。
屋根や壁の面積が広い大きな家や、アパート・工場などの規模が大きい建物の塗装であれば、作業効率が上がって工期を短縮することができます。
工期が短縮できれば人件費も抑えられ、結果的に工事費用も抑えられるというメリットに繋がります。
3.ランダムな模様で意匠性が生まれる
スプレーガンによる塗装では壁に様々な表情を付けることができます。
スプレーによるランダムな吹付け模様は立体感のある凹凸を生み出し、外壁に独特の風合いを持たせることも可能です。
スプレーを使った主な模様仕上げの種類には以下のようなものがあります。
仕上げ方法 | 特徴 |
リシン仕上げ | 塗料に小さな砂利・砂を混ぜたものを吹き付ける
施工費用が安い 砂壁のような趣のある表面仕上げになる |
スタッコ仕上げ | 別名「化粧漆喰」と呼ばれる
リシンよりも粒が大きいため、重厚感が出て高級な仕上がりになる |
吹き付けタイル仕上げ | 別名「ボンタイル仕上げ」と呼ばれる
光沢のある滑らかな表面になるため撥水性が高い ※磁器タイル材をセメントで貼りつけて作る「タイル外壁」とは異なるので注意 |
戸建て住宅の外壁では現場でパネルを張り合わせて作る「窯業系サイディングボード」仕上げが人気ですが、意匠性を求めてスプレーによる吹き付け塗装仕上げを選ぶ家もあります。
■スプレーで塗装するデメリット
事実、現在の外壁塗装ではスプレー式よりもローラー式の方が主流となっています。
それは、スプレー式に以下のような短所があるためです。
1.塗料が周囲に飛散しやすい
スプレー工法最大のデメリットは周りに塗料が飛散しやすい点です。
塗料が周囲に飛散するということは、以下のようなデメリットが生じることも予想されます。
●養生し忘れた箇所に塗料が付着する確率が高くなる
塗装する際は、塗料のはみ出しや垂れを防ぐために必ずビニールシートなどで周囲を養生しますが、スプレーを使った塗装は塗料が周囲に大量に飛散するため、養生が甘い箇所に塗料が付着する可能性が高くなります。
ローラーや刷毛であればせいぜい床に垂れる程度ですので、さほど気にすることはありませんが、スプレーは養生シートやマスキングテープをしていない箇所にも幅広く付着します。
もしスプレー工法で塗装される場合は、車や植物など塗料がついて困るものはできるだけ屋内に移動させておきましょう。
●近隣の家に飛んでいくためトラブルになりやすい
塗料が風に乗って近隣の家にまで飛散すると、近隣トラブルの元となります。
通常、外壁塗装の際には近隣への飛散を防ぐために足場に飛散防止シートを貼り付けます。
しかし雨戸や窓サッシなどを取り外して飛散防止ネットの外で吹付け塗装してしまい、近隣の家の屋根や車に塗料が飛散してしまってトラブルに発展したというケースもあります。
養生シート内で作業を行うのはもちろんのこと、工事前に近隣への挨拶回りを必ず行ってくれるような配慮に長けた業者を選ぶことも大切です。
●塗料の臭いまで拡散されやすくなる
塗料が飛散するということは、塗料の臭いが拡散する可能性も高くなります。
特に、イソプロピルアルコール、1-ブタノール、メタノール、キシレンなどの有機溶剤(シンナー)が使用されている塗料が空気中に大量に充満すると人体に健康被害を及ぼします。
吐き気、めまい、睡眠障害、粘膜への刺激などの健康被害があり、長期間に及ぶと呼吸困難、シックハウス症候群、ノイローゼ、赤ちゃんへの影響の原因ともなります。
心配な方は有機溶剤を使わない水性塗料を選んでもらうか、屋内でマスクを着用するなどして対策しましょう。
●塗料の無駄が生じる
スプレーによる塗装は多くの塗料が飛散してしまう分、無駄にしてしまう塗料の量も増えます。
しかし施工ミスを起こさないためには、塗料メーカーが定めた「基準塗布量」を守らなければなりません。
つまり、大量に飛散するからといって塗料の量を作業員が勝手に減らすことはできないのです。
周囲に飛散する塗料の量を考慮すれば必要な塗料缶も多くなり、それだけ塗料代もかさみます。
塗料を無駄にしないためには、吐出量調節ツマミ・パターン調節ツマミ・エア圧力調節ツマミを調節して、塗料噴出量を調整しながら作業を行う必要がありますが、この点は作業する職人の施工技術に頼らなくてはなりません。
2.塗装中に騒音が発生する
機械を稼働させて行うスプレー工法は、塗装中に騒音も発生します。
通常、外壁塗装で騒音が発生するのは、足場の設置・解体作業と高圧洗浄作業の主に2つしかありません。
しかし、スプレーガンを使って塗装をすると塗装中の騒音まで加わってしまうのです。
足場の設置・解体や高圧洗浄はおよそ半日で終了しますので、騒音が発生するのはごくわずかです。
しかし塗装作業はこれら2つよりも時間をかけて行われますので、通常よりも騒音が長く発生してしまうことになります。
スプレー塗装の騒音の正体は、スプレーガン本体ではなくコンプレッサーにあります。
コンプレッサーとは、外壁に勢いよく塗料を吹き付けるために空気を圧縮する機械のことです。
コンプレッサー稼働中の騒音値は50~70デシベルと言われており、これはトイレの洗浄音や電話の着信音に相当する大きさです。
スプレーによる塗装では、塗料の飛散だけでなく、騒音が発生しやすいという点でも近隣に配慮する必要があります。
3.ムラなく塗装するのが難しい
ローラーや刷毛などの手塗り工法では自分の手で直接塗料を塗っていきますので、壁に当てたときの感触などで塗りムラや厚塗りのし過ぎなどに気づくことができます。
しかしスプレーを使った塗装の場合、ムラが生じているかどうかは手の感覚からは伝わりませんので、職人の経験に頼らなければなりません。
スプレーガンで塗りムラが発生するのは、主に以下のような要因が挙げられます。
- スプレーガンのスピード、角度、壁との距離が均一でない
- 塗料ノズルの詰まり
- エアー圧力・吐出量など、スプレーガンの調整が不十分
- 塗料の粘度が低すぎて空気圧が負けてしまう
このように、スプレー工法は経験と技術を要する繊細な作業なのです。
■おわりに
屋根や外壁の塗り替えでは仕上げ方法や現場の状況に応じて様々な施工方法が使い分けられています。
スプレー工法は、広範囲を早く塗れて肉体的負担が少ないため、塗る面積が多い建物では非常に重宝されている施工方法です。
しかし周囲への塗料の飛散が多く塗りムラも発生しやすいため、自宅の窓や車を徹底的に養生することはもちろん、近隣住宅への配慮も忘れないよう注意しましょう。