住まいのリフォームに関するトラブルの相談は相変わらずさまざまな窓口に数多く寄せられており、その件数は国民生活センターだけでも年間6,000件以上に上るといいます。

もちろん外壁塗装に関する相談も例外ではありません。

そして、外壁塗装に関する相談内容のうちでも多いのが、「無料工事」「格安工事」のトラブルに関するものです。

今回は、外壁塗装の工事費用が「無料」といわれても信用してはいけない理由について解説します。

■なぜ無料の外壁塗装工事には注意すべきなのか

工事費用が無料なら塗装工事をしてみたいと考えてしまう人は多いでしょう。

しかし、無料の外壁塗装工事は施主にとって非常にデメリットが大きいので耳を傾けるべきではありません。

1.「工事費用無料」に惹かれてしまう人は少なくない

外壁塗装工事の費用は決して安くはありません。

30坪~40坪程度の平均的な一戸建て住宅の場合であれば工事費用は70万円~100万円程度かかりますから、外壁塗装工事を検討する時に「少しでも安くできれば…」と考えるのは当然のことでしょう。

ただし、外壁塗装業界にはこうした消費者心理につけこむ商法で客をだます悪徳業者が多くいますので警戒が必要です。

 

例えば、悪徳業者がよく使う手口である「モニター商法」や「値下げ商法」では

  • 限定1棟限りのモニターになってくれたら工事費用を無料にします
  • 今ならキャンペーン中なので足場代を無料にします

などと、外壁塗装費用の大幅値下げを前面に押し出して、営業がたくみな話術で契約を誘ってきます。

 

塗装工事の費用は安くはありませんから、「工事費用を大幅に値引きしますよ、無料にしますよ」と目の前でささやかれれば「そんなにお得に塗装工事ができるならぜひお願いしてみましょうか。」

と、つい引き寄せられてしまうのですね。

 

外壁塗装に関しては専門知識を持っている人が少なく、このように大幅な値引きを提示されるとたいていの人は魅力的な条件だと思ってしまうようです。

しかし、外壁塗装に関して少しでも知識があれば、このような大幅な値引きを前提とする塗装工事などあり得ないと容易に判断できます。

外壁塗装工事にかかる費用の大部分は値引きできない性質のものだからです。

 

外壁塗装工事の費用内訳は

  • 人件費
  • 材料代
  • 足場代
  • 運営費・利益

に分けられますが、そのうち人件費、材料代、足場代にかかる費用の合計は外壁塗装費用のおよそ70%以上を占めています。

ただし、人件費や材料費、足場代はしっかり確保しておかなければ質の良い外壁塗装工事を行えませんので、金額を削るわけにはいきません。

優良な業者は、必要な経費に充分にお金をかけることの重要性、無料で行われる塗装工事の危険性を理解していますから、人件費や材料代、足場代を安くすることはありませんし、絶対に工事費用を無料にするようなこともありません。

2.工事費用が無料になることはない

外壁塗装を行うためには、塗料代や人件費などが必要ですから、工事費用をもらわずに無料にするとなれば何十万円もの必要経費は全て塗装業者が持ち出さなければなりませんが、普通に考えてそのような工事を行うメリットが塗装業者にあるでしょうか?

悪徳業者はもっともらしい言葉を並べて無料で工事ができることをアピールしますが、何十万円もかかる外壁塗装工事を無料で行えるわけがないことは、少し冷静になって考えればわかることです。

外壁塗装工事での「おいしい話」には、何か裏があるのではないかと疑ってかかる方がよいと考えてください。

 

また同様に、相場を大きく下回る価格での外壁塗装工事にも注意が必要です。

説明したように、質の良い塗装工事を行うためには材料代や人件費を削ることはできませんから、工事金額から値引きをしようと思ったら塗装業者が得る利益を削る以外に方法はありません。

しかし、一般的な外壁塗装工事では業者が得る利益は工事費用の2割程度ですから、通常はどんなに頑張っても値引きは工事費の5%~10%程度、金額にして数万円から多くても10万円程度が限界だといえます。

逆に言えば、それ以上工事代金を割引するには工事費用を水増しするか塗装工事の質を落とす以外に方法がないのです。

つまり、「工事代金を半額にします」などとうたっている業者は

  • 相場を大幅に上回る工事代金を提示し、その金額から割引をしている
  • 提示した工事代金は相場通りだが、その代金を割引することで品質を大幅に落として工事をしている

のどちらかの方法で客をだまそうとしているのではないかと疑った方がいいでしょう。

200万円や300万円など、相場の倍以上の高額な見積もりを出す工事はもちろん論外ですが、相場の半額を切るような破格の工事も絶対に信用してはいけません。

 

また、優良業者は、工事の契約をお客様に即決させるようなことはないと覚えておきましょう。

優良業者は信用実績を積み上げたいと考えていますから、依頼主が見積もりの内容に納得するまで、また工事に対する不安や疑問点が解消するまで決して契約を急がせるようなことはしません。

逆に、悪徳業者は依頼主が工事内容に疑問を抱く前に、また他業者と比較される前に契約をとってしまいたいと考えているので「今なら半額です」「今日中に契約していただければ無料にします」などといって契約を急がせます。

最近では、クーリングオフができないような契約をさせる業者もいますので、外壁塗装工事の契約を即決は絶対に避けてください。

■外壁塗装で信用しても良い「無料」は?

外壁塗装の工事費用の無料サービスは危険ですから絶対に信用してはいけませんが、多くの塗装業者がアピールしている

  • 無料の現地調査
  • 見積もり無料

といったサービスに関しては全く悪質性がありませんので安心してください。

1.     現地調査は基本的に無料

業者に見積もりを依頼すると、最初に現地調査の日程を聞かれます。

現地調査では、建物の大きさ(塗装する面積)や劣化状況などを調査し、使用する塗料や必要な補修工事を調べます。

現地調査を行わなければ外壁塗装にかかる費用の見積もりを作成できませんから、多くの業者が現地調査を無料で実施していますが、

  • 目視(塗膜の状態やひび割れなどを目で確認する)
  • 打診(タイルやコンクリートに浮きがないかを棒で叩いて確認する)
  • 触診(チョーキングやサビの状態を手で触って調べる)

までを無料で行う調査の範囲としている業者が多いようです。

それ以外に、精密機器を使った外壁内部の検査などを有料で行っている業者もいますが、費用が発生する場合はもちろんあらかじめ知らせてくれます。

 

現地調査でチェックするポイントは以下の通りです。

  • 建物の大きさや築年数、また使用している外壁材
  • 立地状況
  • 外壁や屋根の劣化状況
  • 希望する塗料の色やグレードの聞き取り

現地調査には通常は30分から1時間程度の時間がかかります。

住宅の寿命を延ばすための手術が外壁塗装工事だとすれば、現地調査はその手術の前に行われる健康診断だといえますから、建物の状態はもちろん、家の周辺状況なども入念に調査をするために充分な時間が割かれます。

 

ですから、現地調査を5分や10分で終わらせたり、偶然家の前を通っただけで「お宅の外壁が危険ですよ」と突然訪ねたりする訪問販売業者には特に警戒しなくてはいけません。

そうした業者は、劣化症状や建物の大きさをろくに調べもせずに適当で高額な見積もりを作ってくる恐れがありますが、健康チェックをほとんどしないまま大手術を行うなんてことは通常ならあり得ないわけです。

2.契約しなければ見積もりは無料

見積もりは、

  • 使用する塗料の種類
  • 設置する足場の種類
  • 作業面積
  • 人件費
  • 諸費用

など、現地調査の結果や依頼主への聞き取りなどをもとに計算して作成されます。

見積もりも現地調査と同様に原則として無料ですし、再見積もりも無料で依頼できます。

また、依頼者は見積もりの結果に納得できたときにはじめて業者と契約を交わしますので、契約書にサインをしなければ費用は発生しません。

 

現地調査が行われてから見積書が作成されるまでは、通常2、3日から一週間程度の時間がかかります。

もちろん、大切な家の寿命にかかわる工事ですから、依頼主とじっくり話し合いの時間を設けてそれ以上の期間をかけて見積もりを作成してくれる業者もいます。

現地調査の診断報告書の結果と依頼主の要望や予算などをすり合わせなければならないのである程度の時間が必要なのです。

 

一方、現地調査もせずにあらかじめ用意してきた見積もりをその場で見せてくるような業者は、建物や立地条件など何も見ず、家の持ち主の要望や質問なども反映させない適当な見積もりを作っていることが明らかですから、そのような業者に塗装工事を任せてしまうのは非常に危険だということが分かるでしょう。

■外壁塗装の「工事費用無料サービス」にありがちなこと

なぜ費用無料で行う外壁塗装工事は危険なのでしょう?

よくある2つの手口を例にして工事費用無料の悪質さについて詳しく解説します。

1.足場代無料サービス

足場代は一棟あたり約10~20万円かかり、外壁塗装費用全体に占める割合も20%程度と結構大きいので、「足場代ってこんなに高いんだ」と驚く方も多いです。

 

ただ、足場には

  • 職人の安全を確保する
  • 職人の作業効率を上げる
  • 塗料の飛散を防止する

という重要な役割がありますので、外壁塗装工事には足場の設置がどうしても欠かせません。

たかが足場、と思う方もいるかもしれませんが、実は足場は資格を持つ職人がいなければ作業ができないため足場専門の職人たちが設置しています。

お客様の大切な家を絶対に傷つけず、塗装職人の安全を確保するための確実な設置・解体作業の技術が求められますので、それなりの費用が発生するのは当然のことなのです。

 

ところが、悪質な塗装業者は

「高額な足場代が今なら無料です!」といった具合に

  • 足場設置費用は高額であることをアピールする
  • 高額な足場設置費用を期間限定で無料にしている

この2点をワンセットにしてお得感を演出し、急いで契約させようとします。

 

確かに足場代が無料になれば塗装費用は大幅に安くなるでしょう。

しかし、実際には本当に足場代を無料にして外壁塗装工事をすれば業者は利益を上げることができません。

 

つまり、「足場代を無料にします」といって営業をしている業者は、

  • 足場代を無料にすると見せかけて他の項目の価格をつり上げている
  • 本当に足場なしで作業を行い、塗料代や人件費を削減して費用を節約して手抜き工事を行う
  • 足場代を無料にする前のもともとの価格設定が相場よりもかなり高く設定されている

のいずれかの手口を使って依頼者をだましている可能性が高いです。

 

依頼者に誠実に対応できないような業者は、塗装工事の質もいい加減であることが多く、

このような悪質な業者に塗装工事を頼んでしまうと、結局は施工不良で3年~5年以内に塗装のやり直しが必要になるケースが多いのです。

2.「火災保険で無料になる!」といって接触してくる

また、塗装業者の中には、「火災保険を活用すれば無料で外壁塗装工事ができますよ」

などといって近づいてくる業者もいます。

確かに、火災やガス爆発、自然災害などで屋根や外壁に損害を被った場合には、住宅火災保険や住宅総合保険を活用して無料で工事できるケースもあります。

しかし、加入している住宅火災保険や住宅総合保険に請求申請をしたとしても、適用条件をクリアしていなければ保険を利用して外壁塗装工事を行うことはできません。

また、損害を受けた建物が保険の適用対象になるかどうかは、建物の持ち主ではなく損害保険会社が指定した損害鑑定人が判断をします。

 

つまり、火災保険に加入さえしていれば保険を活用して無料で外壁塗装工事ができる、というわけでは全くないのですね。

そもそも火災保険は外壁のリフォーム目的で加入するものではありません。

ですから、やたらと「火災保険を使えば無料でお家の外壁塗装ができますよ」などと誘ってくる業者には充分警戒すべきです。

なかには、虚偽の保険申請をするよう施主にアドバイスをして保険金を受け取ろうとする悪質業者もいますが、それはもう犯罪です。

保険会社から「業者と共同で詐欺を働こうとした」と訴えられてしまう恐れもありますので、保険会社に虚偽の保険申請をさせるような業者などは絶対に信用してはいけません。

■おわりに

悪徳業者が消費者をだます手口は年々巧妙になってきています。

そうした業者にだまされないようにするにはやはり消費者側も外壁塗装に関する知識を身につけておく必要があるでしょう。

信頼できる塗装工事をするにはそれなりのお金がかかることを理解し、決して「得する話」「おいしい話」に飛びつかないでください。