外壁塗装では、ついつい上塗り塗料選びを重視しがちですが、実は、下塗り塗料選びの方が重要であり、用途に適した下塗り塗料を選ばないと、せっかくの高級な上塗り塗料も、その実力を十分に発揮できません。
この記事では、下塗り塗料の基礎知識や塗る目的を解説するのはもちろん、下塗り塗料の種類ごとの特徴なども合わせて紹介します。
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■外壁塗装の仕上がりは下塗りにかかっている
外壁塗装の仕上がりは、下塗りにかかっているといっても過言ではなく、下塗りをしっかりすれば、上塗り塗料の接着性も高まり、耐水性などの効果を最大限に発揮できます。
1.外壁塗装は下塗り→中塗り→上塗りの3回塗りが基本
外壁塗装では、以下のように合計3回塗りが行なわれるのが一般的です。
- 1回目(下塗り)…下塗り用塗料(下地材とも呼ぶ)を使う
- 2回目・3回目(中塗り上塗り)…仕上げ塗料(上塗り作業塗料とも呼ぶ)を使う
塗料のグレードでよく話に挙げられるウレタン塗料、シリコン塗料、ラジカル塗料、フッ素塗料などは、中塗り・上塗りの際に使用します。
ただ、下塗りを行なわずにこれらの中塗り・上塗りをしても、塗料と外壁の密着性が悪いため、仕上げ塗り用塗料の塗料性能が十分に発揮されません。
仮に、中塗り用上塗り用塗料に耐久性塗料や高級塗料、耐候性や防カビ性の高い塗料を使用したとしても、下塗りを行なわなければ上塗り塗料が外壁に密着しないため、数年で剥がれ落ちてしまいます。
工事前に見積もりを確認して、「下塗り」の記載がない場合には、手抜き工事や悪徳業者の可能性がありますので、見積もりの内容を詳しく質問したり、他の業者にも見積もりを依頼して比較したりして、悪徳業者を見極めましょう。
2.下塗り塗料の選定を誤ると塗装の耐久性が落ちる
下地塗料はただ使えばいいというわけでもなく、さまざまな種類があるため、誤った下塗り塗料を選択してしまうと、中塗り、上塗り塗料が密着せず、下塗りの効果が発揮できなくなってしまいます。
下塗り塗料を指定している上塗り塗料や下地もあります。
例えば、サイディングボードの下地に、「微弾性フィラー」(効果は後述)の下塗り塗料を塗っても、サイディングボードにたまった熱で下塗り塗料が弾かれてしまうため、上塗り塗料もろとも外壁から剥がれ落ちてしまいます。
●優良業者は見積もりに下塗り塗料まで記載する
優良業者の場合、下塗りの費用はもちろんのこと、下塗りに使う塗料名や塗料メーカーまで記載されていますので、見積書は施工業者選びのポイントとして注目すべきです。
誤った下塗り塗料(下地や上塗り塗料に合ってない下塗り塗料)を選ぶと施工不良の可能性が高まるため、見積もりに下塗り塗料の名称を記載するだけではなく、外壁に合った正しい下塗り塗料を使用していることを説明してくれるでしょう。
■仕上げの前に下塗りを行う目的
仕上げ塗材(中塗り、上塗り)の前に下塗りを行なうのには、主に3つの目的があります。
1.仕上げ用塗料が外壁に吸われないようにする
まずは、「仕上げ用塗料が外壁に吸い込まれるのを防ぐ」目的で、劣化した外壁は、塗料の浸透力が高まっており、下塗りをせずに上塗り材を塗っても塗料が下地内に吸収され、ムラや塗り残しが増えてしまいます。
そうなると、見た目の仕上がりが悪くなるとともに、塗料のロスも増えるので、作業性を高めるためにも、下塗り塗料を塗ることは重要なのです。
2.仕上げ用塗料を外壁と密着しやすくする
次に、「仕上げ用塗料を外壁と密着させやすくする」目的で、金属製の手すりや板金、トタン屋根などの鉄部分などは塗料を弾きやすいため、接着剤の役割を果たす下塗り塗料は必須なのです。
塗料を弾きにくい外壁だったとしても、下塗り塗料がないと上塗り塗料を完全には密着させられないので、下塗りが必要な作業であることには変わりありません。
3.外壁表面の凹凸や小さなひび割れを埋める
そして、「外壁表面の凹凸や小さなひび割れを埋める」という目的もあります。
実際の外壁塗装の作業工程では、職人が下塗り塗料を砂骨ローラーや刷毛などの方法でいきなり塗るのではなく、以下のような下地調整作業を行ないます。
- 高圧洗浄:外壁や屋根に付着したほこりやコケ、チョーキングの粉を落とす
- 劣化状態の古い塗膜をはがす
- ケレン作業:鉄部の汚れ・サビ・塗膜を落とす、塗料の密着性をよくするため傷つける
- 下地処理:クラック(ひび割れ)や崩落部分を埋める
- シーリング工事(コーキング工事とも):目地のシーリング材の穴埋め
- 肌合わせ:補修部分を平らにする
ベランダや陸屋根(屋根の上が屋上になっていて人が出入りできる屋根)など、耐水性や防水性が重視される箇所の場合は、防水工事も合わせて行ないます。
小さなひび割れ(ヘアークラック)や凹凸が外壁にある状態で塗料を塗ると、ひび割れや凹凸により残った空気によって、塗膜に破れや気泡が生じてしまいます。
大きなひび割れ(構造クラック)は下地処理の際に樹脂などで埋めて補修をしますが、ヘアークラックなど幅0.3ミリ未満の小さなひび割れや小さな凹凸は、下塗り塗料で埋めることも可能です。
このように下塗り塗料は、下地強化剤の役割も兼ねているのです。
■下塗り塗料の種類と効果
下塗塗料には様々な種類があり、日本ペイントなどの大手塗料メーカーからも、機能や用途、上塗り塗料のタイプ(水性塗料か溶剤系塗料など)、外装材の種類によって、使用する下塗り塗料も異なります。
また、上塗り塗料と同様に、下塗り塗料にもさまざまな塗膜色がありますが、上塗り塗料の塗膜色との相性も考慮しなければならず、例えば上塗り塗料がクリヤー塗料の場合は下塗り塗料も透明が望ましく、上塗り塗料が赤の場合の下塗り塗料はグレーが適しています。
下塗り塗料を機能で分けると「シーラー」「プライマー」「フィラー」の3種類があり、似ているようで異なるこの3種類の下塗り塗料、違いや効果について解説します。
1.シーラー
まずは、シール(seal:封をする)を意味するシーラーで、その言葉の通り、上塗り塗料が外壁に吸収されないように、封をする機能が高い下塗材です。
劣化して塗料の吸収性が高くなっているモルタル壁・コンクリート・サイディングボードなどに使用され、中塗り・上塗りとの密着性を高める機能もあります。
劣化が激しい場合には油性シーラー、そうでもない場合には水性シーラーを使用するのが一般的です。
その他には以下のようなシーラーも販売されています。
- 熱可塑性合成樹脂系溶液型シーラー:付着性が高い、石綿スレートなどに使用
- 溶剤型熱硬化性合成樹脂シーラー(反応硬化型シーラー):なめらかな塗膜
- 合成樹脂エマルション型浸透性シーラー:最も普及率の高いシーラー
2.プライマー
次は、プライマリー(primary:1番目)を意味するプライマーです。
文字通り最初に塗る下塗材で、シーラーと同じような意味で用いられていますが、シーラーよりは仕上げ用塗料との付着性を重視しており、接着塗料(接着プライマー)の意味合いが強く、特に、屋根材がトタンの場合の屋根塗料や鉄部分の塗装の前には、プライマーが選ばれることが多く、サビ止め塗料や断熱塗料の機能も備えているプライマーもあります。
その他には以下のようなプライマーも販売されています。
- 浸透性プライマー:脆弱な下地にも浸透し、表面を補強する
- 導電性プライマー:静電塗装(帯電した塗料を利用する塗装方法)を可能にする
3.フィラー
最後に紹介するのが、フィル(fill:埋める)を意味するフィラーで、文字通り、下地の小さなひび割れや凹凸を平らに埋める機能に秀でた下地強化塗料です。
フィラーを塗ると、厚みのある下地塗膜を形成するため、小さなひび割れや凹凸ならば特別な下地処理をしなくても、フィラーだけで対応できます。
特に「微弾性フィラー」は、シーラーの機能も兼ね備えたフィラーで、小さなひび割れや凹凸の多いモルタル外壁などで使用されることが多く、地震や強風の衝撃、外壁材の乾燥による伸縮などで、外壁にひび割れが生じそうになっても、微弾性フィラー自体が伸縮することによってひび割れを防ぎます。
ただし、先ほども説明したように、微弾性フィラーはサイディングボードの外壁には塗装できません。
■おわりに
外壁塗装工事前には業者から見積書が提示されますが、優良業者は下塗りの費用はもちろん、使用する塗料名やメーカー名まで記載されていますので、よく確認しましょう。
また、中塗りや上塗りの前に行う下塗りには、利用目的ごとに最適な下塗り塗料の種類が以下のようにあります。
- 上塗り塗料が外壁に吸収されないようにする→シーラー
- 上塗り塗料の密着をよくする→プライマー
- 軽度のひび割れや凹凸を補修する→フィラー
外壁塗装で後悔しないように、上塗りだけでなく下塗りにも気を配りましょう。