これから「外壁塗装工事を業者に依頼したい」と考えている人の中には、塗装工事の詳細や費用の根拠を詳しく知りたいと考えている人もいるでしょう。

 

戸建住宅などの外壁塗装工事は、外壁に塗料を塗ってすぐに終わるというような簡単な作業ではありません。

塗装をスピーディーに品質良く仕上げるためにも、塗装前後の工程も非常に重要です。

 

実際に外壁塗装の見積もりなどを見てみると、塗装以外に足場の設置にかかる費用などが記載されていることも多いでしょう。

外壁塗装工事において、実際の塗装作業の前準備として行われる大きな作業が「足場設置の作業」になります。

特に戸建の外壁塗装に用いられることが多いのが、「ビケ足場」というタイプの足場です。

 

外壁塗装で利用できる足場の種類はさまざまですが、なぜこのビケ足場を利用しなければならないのでしょうか。

またビケ足場よりも価格相場の安い足場を利用して、工事費節約をしながら工事を行ってもらうことはできないのかと気になる人もいますよね。

そこで今回は、戸建住宅の外壁塗装にもっとも利用される「ビケ足場」とは何なのか、またそのメリットやデメリットについて詳しく紹介していきます。

■外壁塗装で使われる足場は4種類

ビケ足場とは、1980年代に日本で開発された楔(くさび)の原理を用いた足場のことを言います。

極めてシンプルな構造であるのに安全性や耐久性、また作業効率の良さなどに優れているのが特徴です。

 

しかし、現在の外壁塗装現場に使用されている足場には現場の状況に応じて4種類の足場が使い分けられています。

ビケ足場も含め、現在は外壁塗装においてどのような足場が使われているのかをまずは価格の安い順にみていきましょう。

ここでは、足場ごとに1㎡あたりの面積に対する単価の目安を表記していきます。

1.単管足場

施工価格:700~900円/㎡

単管足場とは、柱材と足場材にパイプを用いて作られた足場のことをさします。

2本の管パイプの上に足を乗せて移動や作業をすることになり、1970年代に主流であった丸太足場の進化系といわれていました。

 

パイプの上に足が乗るだけなので、作業が不安定になりがちで道具をおけるスペースもなく、落下や転倒の危険性が非常に高くなっています。

そのため、現在では足場材として使用されることも少なくなっています。

 

ただし足場自体がスリムなので、隣の建物と距離が近い狭小地などで多く使用されているようです。

2.単管ブラケット足場

施工価格:800~1,000円/㎡

単管ブラケット足場とは、ブラケットと呼ばれる足場板を緊結する部材で単管と細身の板を固定して組み立てる足場のことをさします。

細身の板が台の役割を果たすため単管足場よりも作業スペースが広くなり、安定性は高いといえるでしょう。

 

しかし、部材の固定が甘いと足場が不安定になりやすいというデメリットがあります。

またビケ足場に比べると、台の幅が狭いので道具を置くほどのスペースがなかったり、足を踏み外してしまう危険性が高くなったりするのです。

3.ビケ足場

施工価格:900~1,200円/㎡

ビケ足場は、先ほども簡単に説明したように「クサビ足場」「クサビ緊結式足場」とも呼ばれる足場のことをさします。

現代の戸建て住宅塗装で利用される主流の足場となっており、ハンマーでブラケットを叩いて板と枠組みを固定して組み立てられ、設置されます。

 

単管ブラケット足場の台に比べ板の幅が広くなっており、工具を置くことも可能で作業や移動のための安定性も高くなっています。

またハンマーでブラケットを叩いて組み立てていくだけなので、組み立て速度が速いのも特徴です。

ビケ足場は短い工期にも関わらず、しっかり固定できるというのが魅力です。

 

ただし、組み立て時にはハンマーでブラケットを叩くという作業が必要になるため、ハンマーを打つ音が周囲に響くというデメリットがあります。

4.枠組み足場

施工価格:1,200~2,200円/㎡

枠組み足場とは、鋼管の門型に溶接された枠に部材を組み合わせて作られる足場のことをさします。

 

1〜2階建てなどの戸建住宅の塗装で使用されるケースはほとんどなく、ビルやマンションなど高所作業が必要な場所に設置されることが多い足場です。

ただし戸建住宅でも、3階建てなど一定の高さ以上がある住宅で使用されるケースもあります。

 

枠になる部材などが大きいため、搬入・搬出に手間がかかり価格も比較的高額になるでしょう。

一方で部材同士が強固に接続されているので、安定感が他と比べて非常に高いという特徴があります。

5.足場を使わない工法

ここまでさまざまな足場の種類を紹介してきましたが、足場を設置せずに作業を行うという方法もあります。

戸建て住宅ではあまり使われないものや危険度が高いものもありますが、足場の種類の1つとしていくつかみておきましょう。

●無足場工法

無足場工法とは、名前の通り足場を作らずに作業を行う方法のことをさします。

命綱をつけた職人が、屋根や屋上などから宙づりになって作業を行う方法です。

実際にビルの屋上などから宙づりになって作業を行なっている姿を見たことがあるという人もいるでしょう。

 

また業者の中には、「無料でできる」「費用が安い」などとアピールし、無足場工法をすすめてくるところも稀にあります。

しかし無足場工法は落下防止ネットなどの安全対策費用が別途で発生しますので、必ずしも無料になったり足場を組むより安くなったりするとは限りません。

●ゴンドラ

ゴンドラとはカゴ状の足場のことであり、屋上などから吊られている吊りカゴ状のものや、下からカゴを支える昇降装置のついたものがあります。

おもに足場が組めない高層ビルや、マンションなどで使用されることが多くなっています。

 

ゴンドラの中に作業員が入り、ゴンドラ自体が建物の周りを移動することによって作業を行うしくみです。

足場を組む必要はありませんが、無足場工法同様に落下防止ネットなどの安全対策費が別途発生することになるでしょう。

●脚立

費用面でも一番安価に収まる方法が、脚立を利用しての作業です。

文字通り、脚立を持ち歩いて塗装を行うことになります。

 

脚立の上は1人が立ったり座ったりするのがやっとのスペースですので、道具を置くスペースはありません。

また手元や足元が安定しにくく、作業がすすむごとに脚立を移動させるという手間もあり作業スピードが遅く、作業効率が悪いというデメリットがあります。

 

ただし使い方として複数の脚立を並べて、その上に板を乗せて作業台や踏み台を作って簡易的な足場のように使う業者もいるようです。

そのような使い方をする業者の場合には、脚立1台利用の場合と比べると作業効率などのデメリットが軽減されるといえるでしょう。

■ビケ足場のメリット

ここまで色々な足場や、足場を利用しないで作業を行う方法などについて説明してきました。

その中でも、外壁塗装において現在一番利用されることが多いのがビケ足場です。

ここでは戸建住宅の塗装工事で主流になったビケ足場のメリットについて詳しくまとめてみました。

1.費用が手頃で設置もスピーディー

ビケ足場が主流になった大きな理由として、設置が比較的簡単であるという点があげられます。

部材なども他の足場に比べて少なくハンマーがあれば設置できるという点でも、スピーディーに作業を行いたい戸建て住宅の塗装に向いているといえるでしょう。

 

また足場自体の安定度も単管足場などよりもはるかに高いため、安全に作業をすすめることができます。

さらに枠組足場を設置するよりも労力が少ないため、手軽に足場を組めるというのも大きなメリットです。

そしてビケ足場のデメリットとしてあげられる設置時のハンマーで叩く音も、設置自体が簡単なので、半日程度で終わるので近所への配慮が最小限で済みます。

 

費用面では単管足場よりは高くなってしまいますが、その分の安全性が確保されていると思えば費用も決して高くはないといえるでしょう。

2.安定感が高い

外壁塗装における作業スピードや作業性の質を向上させるために重要な足場の役割が、「安定感」だといえるでしょう。

 

高所作業は、通常の地に足のついた作業に比べてどうしても足元が不安定になりがちです。

その点ビケ足場は落下防止と施工ミス防止の両方の面から見ても、従来主流で利用されてきた単管足場や単管ブラケット足場に比べて非常に安定しているといえます。

 

たとえば単管足場の場合、パイプの上をじかに移動することになるので、ビケ足場に比べて転落のリスクが高くなります。

また無足場工法や脚立の作業は、足元自体がほとんど確保されていない状態での作業になるため、安全性が非常に低いといえるでしょう。

 

逆にビケ足場には広い踏み板があるので、足元をほとんど気にすることなく移動でき、道具を置いても邪魔にならないので作業効率が格段に上がります。

さらに、足場がしっかりしていることで手元も狂いにくく、仕上がりの品質を向上させることもできるのです。

 

より安定した足場を利用することで転落や落下などの事故がなければ、業者や近隣の人とトラブルに発生するリスクもありません。

施工ミスが起きなければ、やり直しで無駄な時間を費やすこともなく、工事完成後に気持ちよく過ごせるというメリットがあるのです。

■ビケ足場のデメリット

これまでビケ足場のメリットについて紹介してきましたが、ビケ足場は必ずしも万能な足場であるとはいえません。

あくまでも戸建住宅の外壁塗装向きの足場であるとはいえますが、住宅がある場所や塗装を行う高さによってはデメリットが目立ってしまう場合もあるのです。

 

ここではビケ足場のデメリットを紹介した上で、状況に応じて利用した方がよい足場の種類についても紹介していきます。

1.狭小地では設置できないことがある

ビケ足場は戸建住宅向きの足場ではありますが、狭小地(きょうしょうち)には設置できない場合があります。

これはビケ足場の足場板にある程度の幅があるので、外壁塗装を行う壁と隣の建物の間隔が狭い現場などでは設置できない可能性があるのです。

ビケ足場が設置できないくらいの狭い敷地の塗装工事には、もっとも幅を取らない足場である単管足場が用いられることが多くなっています。

 

単管足場を用いるとビケ足場よりも安定感が劣るため、作業スピードが遅めだったり、転倒して隣地にぶつかったり塗料が飛散する可能性は高くなるでしょう。

そのようなリスクを回避するために、飛散防止シートなどの設置費用などが別途かかる可能性もあります。

2.組み立て可能な高さに制限がある

安全性の面などから、ビケ足場の組み立て可能な高さには制限があります。

一般社団法人仮設工業会『くさび緊結式足場の組立て及び使用に関する技術基準 (2015年改訂版)http://www.humantecg.co.jp/scaffold/gijutukijun.html#1

』の中では、戸建住宅の工事では軒の高さが10m未満と定められています。

 

ちなみに、ビルなどの工事では高さ45m以下と技術基準が定められているので、戸建でもビルでも高さの制限が設けられているのです。

制限以上の高さに足場を設置するのであれば、残された選択肢は施工工事費用がビケ足場よりも高額な枠組足場を利用するしかありません。

 

このように制限などに引っかかってしまい、結果的にビケ足場を設置できないというパターンもあるのです。

■おわりに

今回は、戸建住宅の外壁塗装に利用されることの多い「ビケ足場」とは何なのか、またそのメリットやデメリットについて説明してきました。

ビケ足場とは楔(くさび)の原理を利用した足場のことであり、安全性や作業効率、さらには価格の面から戸建住宅の外壁塗装における主流の足場として利用されています。

 

今回紹介したように、ビケ足場以外にも足場にはさまざまな種類があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。

そして、ビケ足場も戸建住宅の外壁塗装においては相性が良い足場ではあるものの、必ずしも万能な足場ではありません。

他の足場同様に、ビケ足場にもメリット・デメリットが存在します。

 

外壁塗装業者に見積もりを取った時に、ビケ足場が利用されているようであれば作業する場所に、本当にビケ足場が最適なのかどうかを自分で検討してみるのもよいでしょう。

また他のタイプの足場にて見積もりが作られている場合には、なぜその足場が使われているのか業者に理由を聞いてみるのもいいかもしれません。

 

足場の特性を理解して、自分の住宅に取って最適な工事ができるように業者と話を進めていくことをおすすめします。