外壁塗装は業者選びも重要ですが、塗料選びも同じくらい重要です。
塗料メーカーは様々な機能性塗料を次々に開発していますが、高品質で長寿命な商品として注目を集めているのが今回ご紹介する「無機塗料」です。
この記事では無機塗料の特徴や性能、メリットやデメリットなどを解説しますので、ぜひ外壁塗装の塗料選びの参考としてお役立てください。
このページの目次
■無機塗料の基礎知識
無機塗装について説明する前に、まずは有機物と無機物の違いについて説明します。
1.有機物と無機物の違い
有機塗料と無機塗料には、
- 主成分に有機物を使用しているか
- 主成分に無機物を使用しているか
という点で違いがあります。
有機物と無機物を比較すると、以下のような違いがあります。
有機物 | 科学の力や人体から生み出される物質
(樹脂、プラスチック、タンパク質、脂肪など) |
無機物 | 自然の中で生まれる物質
(石、木、水、空気、金属、無機ガラス、ダイヤモンドなどの無機鉱物) |
2.無機塗料の特徴
屋根や外壁などの塗装に使われる塗料には、アクリルやウレタンといった樹脂、つまり有機物が配合されていますので、有機塗料または有機樹脂塗料と呼ばれます。
これに対し、無機塗料は無機物の力を応用して作られた塗料です。
磁器質の力を応用したセラミック塗料やセラミックシリコン樹脂塗料と呼ばれる塗料も、無機物の力を応用した広義の無機塗料の一種と考えることができます。
無機物の力を応用した無機塗料には以下のような特徴があります。
- 紫外線で劣化しにくい
- 燃えにくい
- カビやコケの栄養になる炭素を含まない
- 硬度が高い
3.塗料は100%無機物で作ることはできない
後ほど詳しく説明しますが、無機塗料を選ぶ場合は塗料に含まれる無機物の割合にも注意しなければなりません。
無機塗料は無機物の力を塗料の性能に応用していますが、100%無機物だけで構成することはできません。
塗料を作るときは樹脂などの有機化合物を混ぜなくてはなりませんので、完全に無機物だけで塗料を作ることはできないのです。
このことから無機塗料は「無機ハイブリッド塗料」、つまり有機と無機両方の力を持つ塗料と呼ばれることがあります。
無機物だけで塗料は作れないということを理解しておかなければ「100%無機物でできたメンテナンスフリーの丈夫な無機塗料ですよ!」などという悪徳業者の嘘に騙されてしまう恐れがありますので、しっかり覚えておきましょう。
■無機塗料のメリット
無機塗料には有機塗料にはない特徴がありますが、それはそのままメリットにも直結します。
工事予定地域によっては、このメリットの恩恵を多く受けられる場所もあります。
1.耐候性に優れている
無機塗料の最大のメリットは「耐候性」に優れている点です。
耐候性とは、紫外線や雨、温度変化といった屋外で生じるダメージに対して強い性質のことです。
外壁塗装業界では「耐候性が高い=耐用年数が長い=寿命が長い」と捉えられており、寿命が長い塗料で塗装しておくと、屋根や外壁の塗装工事の頻度が減り、メンテナンスコストを抑えられるようになります。
●無機塗料はフッ素系塗料より長持ちする
現在存在する塗料のグレードで最も高いものは、フッ素塗料になります。
フッ素塗料の耐用年数は15~20年と言われ、塗料の中でも特に高い性能を持っています。
無機塗料はこのフッ素塗料よりも長持ちする塗料として注目されています。
大手塗料メーカーの一つである日本ペイントでは、『アプラウドシェラスターNEO』という無機塗料を販売しています。
この塗料の性能を示す資料の中には、フッ素系塗料と無機塗料の「光沢保持率」を比較する実験の結果が記載されています。
光沢保持率の数値が高いほど紫外線のダメージをあまり受けていないことになります。
フッ素塗料
(日本ペイントフッ素樹脂塗料) |
無機塗料
(アプラウドシェラスターNEO) |
100時間経過後の光沢保持率 | |
85%程度 | 90%程度 |
150時間経過後の光沢保持率 | |
65%程度 | 80%程度 |
200時間経過後の光沢保持率 | |
40%程度 | 80%程度 |
この結果から、無機塗料はフッ素系塗料よりも光沢が無くなる速度が遅く、紫外線に強い耐候性を備えている塗料であることが分かります。
もちろん無機塗料も紫外線などで経年劣化してしまいますが、非常に高い耐久性を持つと言われるフッ素塗料を凌ぐほどの耐候性は注目すべきと言えるでしょう。
また、無機塗料であればチョーキング現象が発生する可能性も低いと言えます。
「チョーキング現象」とは、塗料が紫外線によって分解されてしまい、成分の顔料が粉となって外壁表面に現れる現象のことです。
チョーキング現象が起きた外壁を手で触ると、手に塗料と同じ色の粉が付くことがあり、この状態になっている塗料はほぼ耐久性を失っていますので、できるだけ早めに塗り替えなくてはなりません。
●無機塗料は大きな建物の塗装に向いている
耐候性が非常に高く長持ちする無機塗料は、二世帯住宅や集合住宅といった大きな家や工場など、頻繁に塗替えができない建物の塗装に向いています。
一度塗装しておくと約20年は耐久性を保ち続けるため、大きな建物の周りに足場を組んで長期間の作業を行うといった手間を大幅に減らすことができるでしょう。
2.耐汚染性が優れている
無機塗料は防汚染性能にも優れています。
その理由は、無機塗料が親水性を持つためです。
「親水性」とは水になじむ性質のことで、水をはじく「撥水性」とは異なる性質です。
一見すると、親水性があると外壁が水浸しになってしまうのではないかと不安に感じてしまいますが、浸水性は外壁表面の汚れを防ぐ重要な性質なのです。
親水性が高い外壁の表面に土埃や排気ガスなどの汚れが付いても、雨が降った時に汚れと外壁の間に雨水が入り込み、汚れを洗い流せるようになります。
また、無機塗料は有機塗料よりも静電気の発生量が低い塗料です。
汚れは静電気に引き寄せられて外壁に付着しますので、静電気の発生を抑えることができれば、汚れそのものが付着しにくくなり、先ほどの親水性機能と連動して汚れにくい外壁にすることができます。
その他にも、無機塗料は可能な限り有機物を減らしていますので、有機物を栄養にして育つカビや藻を寄せ付けない効果もあります。
雨や湿気が多くすぐにカビが生えてしまう地域では、無機塗料の性質を大いに役立てることができるでしょう。
3.耐火性が高い
無機塗料は不燃性にも優れています。
無機塗料は有機塗料と比べて、有機物(特に炭素)の含有量が少ない塗料です。
炭素は燃焼性の高い物質ですので、炭素が少ない無機塗料は耐火性が高いということになります。
隣の建物と至近距離で隣接している家でも、火事のときに延焼のリスクを減らすことができるでしょう。
■無機塗料のデメリット
耐久塗料として知られる無機塗料は沢山のメリットがあります。
すぐにでも無機塗料で塗装したいと考えてしまいますが、以下のようなデメリットがあることもしっかり覚えておきましょう。
1. 無機の配合量が少ないものもある
無機塗料といってもその品質は様々です。
中には、無機物の配合量が非常に少ない塗料を使用している施工業者もあります。
「塗料は100%無機物で作ることはできない」の項目でも説明しましたが、もし仮に100%無機物で構成された物質があるとすれば、それは液体ではなく固体ですので、硬すぎて塗料としては使えません。
無機塗料が合成樹脂を配合しなければ塗料として使えないのはこのためです。
問題は、「無機物を何パーセント以上配合していないと無機塗料とは認めない」というような定義がないことです。
つまり、非常にごくわずかしか無機物が配合されていなくても、無機塗料と言ってしまうことができるのです。
無機物の配合率が低ければ、先ほど解説したような高耐候性や低汚染性といった無機塗料本来の効果を発揮できないでしょう。
2.施工価格が高くなる
高品質な無機塗料は、どうしても施工金額が高くなってしまうという大きなデメリットがあります。
1㎡あたりの施工価格を「塗料単価」または「施工単価」などと呼びますが、無機塗料は塗料単価の価格相場がとても高い塗料です。
塗料の種類 | 塗料単価相場(㎡あたり) |
アクリル塗料(アクリル樹脂塗料) | 1,000円~1,200円/㎡ |
ウレタン塗料(ウレタン樹脂塗料) | 1,800円~2,000円/㎡ |
シリコン塗料(シリコン樹脂塗料) | 2,500円~3,500円/㎡ |
ラジカル塗料 | 2,800円~3,500円/㎡ |
フッ素塗料(フッ素樹脂塗料) | 4,000円~5,500円/㎡ |
光触媒塗料 | 5,000円~5,500円/㎡ |
無機塗料 | 4,500円~6,000円/㎡ |
ご覧の通り無機塗料は、高級塗料に分類されるフッ素塗料や光触媒塗料などの塗料に劣らない高価格帯です。
他の塗料よりも耐用年数が長い分、費用がかさんでしまうのはある程度仕方のないことかもしれません。
しかし30坪の家でシリコン塗料を使ったときの費用相場が70~90万円であるのに対し、無機塗料は110~130万円という相場になっています。
耐久性を優先するか一回の工事費用を抑えるか、慎重に考えたうえで無機塗料を選ばなくてはなりません。
3.ひび割れが多い外壁には不向き
無機塗料はひび割れが多い外壁にはあまり向いていないのもデメリットです。
無機塗料は耐久性に優れた塗料ですが、それは硬い塗膜表面によって実現されています。
つまり伸縮性には乏しいので、建物に負荷がかかると外壁もろとも塗膜表面にもひびが入る可能性が高いのです。
外壁の材料にはサイディングボードなどのパネルタイプと、モルタルなどの塗って仕上げるタイプがあります。
このうちモルタル壁は表面にひびが入りやすい外壁材です。
モルタル壁のひび割れを放っておくと、外壁躯体に雨水がしみ込み建物そのものの劣化に繋がります。
モルタル壁やコンクリート壁、地震や強風が多く建物が揺れやすい地域などで無機塗料を使用するなら、弾性タイプの無機塗料を使用するという方法もあります。
先ほどフッ素塗料との比較実験でも登場した日本ペイントの『アプラウドシェラスターNEO』は、弾性機能を持つ無機塗料です。
弾性系塗料で塗装しておくと外壁表面が伸縮率の高い塗膜で覆われ、ひび割れが起きても塗料がゴムのように伸びて割れを塞いでくれます。
ただし、乾燥で膨張や伸縮を繰り返す「木部」はモルタル以上に塗膜が剥がれやすいため、無機塗料はおすすめできません。
4.工事業者の技術が求められる
せっかく高価な無機塗料を使っても、工事業者の技術がないとその効果も発揮できません。
これは、無機塗料だけでなく有機塗料でも同じです。
外壁塗装では、高圧洗浄や下地処理を行って塗装が行いやすい状態を整えます。
そして、上塗りの前に下地材を下塗りすることによって、塗料は初めて安定感のある塗膜を形成できるようになるのです。
もし高圧洗浄や下地処理、下塗りの技術が高くない業者や手抜き工事を行う職人に依頼してしまうと、せっかくの無機塗料の性能が無駄になってしまいます。
また、もし下地処理がうまく行ったとしても、上塗りにムラがあったり塗料飛散量が多かったりすると、塗膜の劣化が早くなって耐用年数が短くなるだけでなく塗料代もかさんでしまい、ただでさえコストがかかる無機塗料のデメリットがさらに増えてしまうでしょう。
5.ツヤが完全に消せない
無機塗料は完全な艶消しが選択できないため、一部の方にとってはこれがデメリットになることもあります。
塗料の中には、艶あり、艶なし、半部艶、3分艶、5分艶といった具合に艶のレベルを選択できるものもありますが、無機塗料には艶なしという選択肢がありません。
ギラギラした光沢を好まない人や、マットで落ち着いた外壁にしたい方には無機塗料は不向きと言えるでしょう。
どうしても無機塗料で艶を抑えたいときは、3分艶や5分艶などで調整するしかありません。
■おわりに
無機塗料は、以下のような人に向いていると言えます。
- コストをかけてでも塗替えの頻度を少なくしたい
- 火に強い家にしたい
- 外壁掃除の手間を省きたい
- 艶のある外壁にしたい
無機塗装は耐久性が高く、汚れにくく艶も長持ちするため外壁に意匠性を持たせられます。
しかしどの塗料よりも施工コストがかかり、業者の技術力や塗料自体の無機配合比率に性能は大きく左右されます。
高価な無機塗料でしっかり効果を出すためには、無機物の配合比率が高い大手塗料メーカーの製品を使い、無機塗料の施工事例が豊富な業者に依頼することが大切です。